小川綾乃 – TRIGGER

小川綾乃

彼女の職業は栄養士。若干21歳の彼女は日々学びながら、調理に向き合っている。
彼女には夢がある。その夢を抱いた時に、彼女の日常は鮮やかなものへと変わっていった。

定食屋を開きたい

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定食屋を開きたい

彼女の本業は栄養士だ。
主に、老人ホームの食事作りを担当する。

施設の朝食を作る彼女の朝は早い。
6時半には出勤し、朝食を作り始めるという。

厳密に定められている食事の提供時間。
だから、日々の調理の現場は忙しい。

しかし、その中でも彼女には大切にしている日課があった。

それは、自分が調理した食事の感想を
実際に入居者に聞いて周ること。

美味しかったですか?
どこがダメでしたか?

良いも悪いも聞いて周るという。

もっと調理の腕を上げていきたい。

その想いから休憩時間を割いてまで、
自分から進んで行っていることだという。

入社2年目の21歳の彼女。
なぜここまで志高く頑張ることができるのか。

実は、そこには彼女の抱いた夢が大きく関係している。

定食屋を開きたい。

その夢を抱いた時に、彼女のモノクロの毎日は
色鮮やかな世界へと変わっていった。

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同じことの繰り返し

毎日の仕事にやりがいと高い向上心を抱く彼女。

昔からそうだったのかと聞くと、
彼女は首を横に振る。

「1年前はストレスばかりでしたよ。
本当に行きたくなかったし、辞めたかった」

彼女が栄養士を目指すことを決めたのは、
高校生の2年生の時だ。

過度なダイエットで体調を崩したことがきっかけだった。

痩せた代わりに貧血を頻繁に引き起こし、
体がボロボロになっていったという。

その時に初めて読んだ栄養の本。

食事に対する間違った認識に驚きを覚えるとともに、
その頃から食品に記載された栄養素表記を眺めるようになったという。

それがきっかけで栄養士の専門学校に行くことを決意。
卒業後に就職したのが法人施設の調理を行う今の職場だった。

しかし、入社してすぐに彼女は仕事が嫌になる。

同期とも離れ離れの職場になり、
職場の人たちはみな年配の方々ばかり。

素直なコミュニケーションが取れない日々に
モヤモヤは溜まっていった。

気づけば眺めていたFacebook。

同い年のみんなは楽しそうな投稿ばかり。
遊んで、バイト、時々、大学。

自分は朝5時に起きて、誰とも話せない職場で黙々と調理をする。
そして、配膳をして、帰宅して寝る。

そんな毎日の繰り返し。
何にも面白いことなんてない。

自分は一体なにをやっているのだろう。

自身の人生に疑いを抱いていた。

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変化のきっかけ

自分が選んだ栄養士の道。
しかし、その日々は作って盛るの繰り返し。

別に頑張ったところで、何かが変わるわけではない。

ロボットのように感情を失くした仕事に
面白いことなど一つもなかった。

しかし、そんな彼女はとある衝撃的な経験によって、
大きな変化を遂げることになる。

それは、友人達と訪れた香川県の
とある食事処がきっかけだった。

木々に囲まれ、ひっそりと佇む日本家屋。
能楽堂まで備えた一風変わった場所だったという。

そこで夕食時に並べられた日本食の数々。
主な料理はうなぎのまぶしご飯とすきやき。

彼女が、そのうなぎご飯を食べた時だった。

口の中にふわぁっと広がるうなぎの旨味と
どこか懐かしい温かな母親の味。

今まで自分が食べてきた料理とは明らかに
一線を画していたという。

美味しい!

彼女は夢中になって、食べ続けた。

うなぎご飯だけではなく、すきやきも美味しい。

そして、並べられた全ての食事が最高に美味しかった。
そうして、彼女がふと周りを見た時だった。

自分と同じように、美味しいと口々に話す友人達。
衝撃が走った。

友人達の表情が本当に幸せに見えたのだ。

お世辞や比喩などではなく、

”幸せ”とはこういう表情なのだと心の底から知った瞬間だった。
そして、それは自分が仕事で、

提供する料理では決して見たこともない表情。
食事で幸せを作り出す。

彼女は自分自身の中で何かが動きだした気がした。
私もこんな風に食事で幸せを作りたい。

だから、彼女の変化のきっかけは、
自分が食べた美味しい食事ではなかった。

食事から生まれる友人達の幸せな表情。

それを目の当たりにした時、
彼女のモノクロの毎日に色が帯び始めた。

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夢の色彩

香川から帰ってきてから、彼女が始めたこと。

それは飲食店巡りだった。
時間があればカフェや定食屋を訪れた。

自分はどんな食事で人を幸せにしたいのだろう。
そんな想いで周っていたという。

そんな中で出会ったのが恵比寿の定食屋だった。
落ち着いた店内で出てくる料理は、肉じゃがや生姜焼き。

彼女はそこで気づく。
そんな庶民的な料理と味こそ、自分が大好きで提供したい料理。

こんな定食屋を自分もやりたいな。

そんな想いが、いつしか自分の夢へと変わっていった。

そして、この頃から調理に対する意識も
不思議と変わっていったという。

先輩の調理師からのアドバイス。
既に学校で習った包丁の握り方や姿勢などの基本的なこと。

今までは面倒になって流していたそれらのことも、
真剣に聞くようになっていった。

自分が働く施設を周って、実際に食事の感想を
聞くようになったのもこの頃からだ。

自分が美味しい料理を提供するためなら、
どんなアドバイスでも感想でも聞きたかった。

毎日が学びと成長のチャンス。
そのことに自分が気づくということ。

だから、彼女の世界は色鮮やかだ。

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夢を発表して欲しい

最後に彼女はこう語った。

「私の定食屋を開きたいという夢。
それを今回はっきりとした夢で発表して欲しいんです。

今まであまり周りには言ってこなかったけど、
私は夢ができてから毎日が変わった気がするんです。

そしたら次は、この夢が叶ったらいいなぁって。

今は調理の腕を磨くために、毎日頑張ってるから、
私の夢をいろんな人に知ってもらえたら、
なんかまた違うことが起きそうな気がするんですよね」

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この記事を書いた人

宮本 伸男
宮本 伸男ライターであり総監督でもある
人狼が大好きです。
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